【書評】 「経済史」 小野塚知二 (有斐閣) Part3
今回で最後になりますが引き続き、小野塚知二「経済史」(有斐閣)をご紹介します。
前回前々回では、人間が持つ特殊な欲望「際限のない欲望」が経済成長の根底にはあること、前近代、近世の経済形成過程をご紹介しました。
最後は、「近代、現代」について見ていきたいと思います。
【概要 part3】
・産業革命に始まり資本主義が確立した近代
・介入的自由主義へと変化するも昏迷をきたす現代
・必要となる時代の構想
○実は安定していた近代
産業革命に始まり、人間が「際限のない欲望」の充足を求め資本主義社会が確立したのが近代です。
資本主義の確立により経済制度、国家の役割、自然との関わり、家の形態と様々な変化が起きました。
経済制度:信用売買が行われるようになり、金融の制度が登場
国家の役割:夜警国家論が登場するも救貧政策なども行う
自然:化石燃料という過去の自然依存を深める
家:労働力の再生産の場となる
このような変化がイギリス発で起き資本主義が世界へと波及していきました。この時期の帝国主義により植民地化された地域がありましたが、植民地も含めた世界全体の経済が成長していたという点で、安定化された世界ではありました。
○構想を見失った現代
実は、近代で男性は皆「際限のない欲望」を充足できると考えられていましたが、この前提が崩れたことで介入的な社会制度が採用されるようになったのが現代です。
近代末期の関税戦争から始まった心理的な対立が第一次世界大戦を引き起こし、その後処理の際にブロック経済へと突入したことにより第二次世界大戦が勃発しました。
この二度の世界大戦を経て、国際協調の枠組みを決めるなど世界的に介入的自由主義が広がります。そして、社会主義との対立に介入的自由主義が勝利するも、到達する目標を見失い昏迷の最中にいるのが現代なのです。
○これからの社会はどうなるのか
先ほども紹介しましたように、現代は到達すべき目標を見失い昏迷の最中に陥っています。
そのため、経済がこのまま成長し続けることまたは成長のない資本主義の実現可能性、現在の文明の持続可能性の検討が、最後の問いとして設定されています。
本書で提示されている可能性は、文明崩壊、管理社会、サービスによる経済成長、人間関係の再構築、美への富の形態変化、小さく弱い規範の再建といった選択肢を提示しています。
そして次代の構想を行うために過去に学ぶことが必要になるのです。
【総括】
三回にわたり人間の「際限のない欲望」を背景にこれまでの経済を見てきました。経済成長の裏に人間の特殊性を見るというところに、経済史の視点の深さ面白さを感じました。そして、経済「史」という歴史から学ぶことで次代の構想を検討する必要性に迫られている現実がそこにあります。
18/7/6に米中の関税戦争が勃発しました。過去のこの結末が第一次世界大戦であったという歴史を鑑みて、世界を見ていかないといけないのかもしれません。
また、先日紹介したWORK SHIFTの中でも人間関係の再構築の必要性が挙げられていたように、次代の構想となる選択肢は様々な本で論じられ一大ブームになっていることを考えると、社会が変化する時期なのかもしれませんね。
個人としては、今検討すべきことは価値の判断軸を<シフト>させることであり、それを行えている人は楽しく生きているように思っています。